僕は学校から帰ってくるとまず冷蔵庫を開ける癖がある。
中に入っている牛乳を取り出してまず一杯飲むともう一杯コップに注ぎ、それを持って二階の自分の部屋に入るのだ。
この時、プリンなどあっても手を付けてはならない、それは岬ねぇちゃんの物だからだ。もし手を付けようものならどんな仕打ちが待っているか分からない。
以前、岬ねぇちゃんがとっておいた有名店のプリンを何の気なしに食べてしまった時は一週間粗食が続き、機嫌をとるために何時間も並ぶ店のプリンを買ってこさせられた。
僕の家は二階建ての一軒家で、それほど広い訳ではないが親父とねぇちゃんと僕の三人で暮らすには広いくらいの家だ。
一階に台所と繋がったリビングと親父の部屋があり、二階は僕とねぇちゃんの部屋がある。
階段を上がって自分の部屋に入ると、まずノートパソコンの電源を入れる。
携帯のメールをチェックすると、部活の友達がアホ顔の写メールを送ってきていた。
「てめぇ、サボるんじゃねぇよ!!」と書いてあった。
携帯をベットに放り投げ、かばんに目をやった。
分厚い本が入っている、図書室から持ってきた「降魔陣」と書かれた本だ。
牛乳を飲みながらパラパラとめくってみたが、字ばかりで読む気になれない。
絵もあったのだが、複雑な字のような物で図が構成されている魔法陣ばかりだった。
さらにページをめくっていくと、他の魔方陣に比べてもの凄く簡単な物が物があった。
その部分を少し読んでみると、やはり悪魔を呼び出す陣であるらしい。
谷口は悪魔を呼び出して、今までアイツをいじめていた奴らに復讐をするつもりだったのだろう。
こんな物を信じて馬鹿だなと笑いたい気持ちもあるが、実際に不思議な現象を目の当たりにしてしまった今、笑って済ますことは出来ない。
何の気なしに簡単なヤツをノートに書き写し、本に書いてあるように陣に指を当てて呪文のような物を唱えてみた。
こんな本を見ていきなりやったところで何も起こるはずは無い、そう分かっていても少しドキドキした。
「あー……アルスト、バラス?」
本に書いてあるように言って見たが何も起こらなかった。
だいたい何が起こるかもちゃんと読んでいないから分からないのだけれど、少し安心した。
自分で書いた陣を本に挟み、かばんの方へ放り投げ牛乳を一口飲んだ。
「ははは、バカみてぇ」
さっき立ち上げたパソコンに向かい、メールチェックをしようとした時、異変に気がついた。
焦げ臭い臭いがしている。どこかで何かが燃えているような臭いだ。
台所を確認しに行こうと慌てて立ち上がると、さっき放り投げた本から白い煙が噴出した。
ブシューーーーーーーッ!!!
ボンッ!!
凄い勢いで煙が出たかと思うと、さっき僕が書いた魔法陣が本から飛び出して空中で燃えた。
僕はその様子を見て、身動きが取れずに口をあんぐり開けて眺めていた。
空中で燃えていた紙が燃え尽き、火が消えたと思った瞬間、その火の中から赤黒い小さな塊が床に落ちた。
赤い塊は人間の形をした物で、僕に向かってひざまずいている。
「お呼びに預かりまして光栄です」
赤い塊は僕に向かって鋭い視線を向けながらニヤリと笑った。
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