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「おい、おいッ起きろよ」
誰かが不機嫌そうに僕の横で言っている。

ゆっくりと目を開けると、谷口が倒れている僕の肩を揺すっていた。

「お……、お前……大丈夫だったのか」
僕は少し安心した。

「なんであんな余計な事したんだッ、もう少しだったのに……また一からやり直しじゃないか!!」
谷口は座り込み、憎らしそうに僕を睨んで目には涙をためていた。
僕は思考が停止いていて、谷口が怒っているのをボーッと眺めていた。

しばらくすると谷口は立ち上がって、図書室を出て行った。
僕は床に寝転がったまま部屋の中を見回した。
特に変わった様子も無く、入ってきたときと何も変わっていない。

谷口が書いたのであろう魔方陣は綺麗に消されていた。
その傍らに落ちている本に目が留まった……「降魔陣」と書かれた分厚い本だった。
僕はその本を手に取り、部活には行かずにそのまま帰宅した。

通っている中学から歩いて15分ほどの所に僕の家がある。
ちょっとした商店街を抜けて良くのだが、ここをす通りするのはちょっと難しい。
誘惑がいっぱいあるのだ。焼きたてパン屋に果物屋、肉屋のメンチカツに昔から通っている駄菓子屋といった具合でおまけにツケがきく。
ツケと言っても僕が払うわけではない、岬ねぇちゃんが買い物ついでに払ってくれるのだ。

岬ねぇちゃんは僕より五つ年上で、母親が死んでからずっと家事をやってくれている。
今は就職してOLをやっているが、遊びもせずに帰ってきて家族の世話をしてくれているやさしい姉さんだ。
僕に甘く、あまりムチャをしなければ優しく注意するくらいで許してくれる。

「おっちゃん、メンチカツ頂戴!」
お腹が減っていたのでいつものように肉屋に寄った。

「はいッ、 ただいま!」
いつもなら岬ちゃんに心配かけんなよと言って笑顔で接してくれるおっちゃんが、妙に余所余所しい。

「お待ちどうさまでした!!」
青ざめた表情で慌ててメンチカツを差し出すおっちゃん。

「どうしたのおっちゃん?」
僕は様子が変だと思い聞いてみた。

「いえ、どうしたと言う事はありませんッ」
直立不動で答えるおっちゃん……、変なの。

「岬ねぇちゃんにお金もらってねぇ~」
僕はそう言うと肉屋を出た。

「いえ、お金はいただきません! ありがとうございました!!」
おっちゃんはまだそんな事を言っている。もともと冗談の好きなおっちゃんなのでふざけているのだろう。

僕は温かいメンチカツを頬張りながら家に帰った。

 

 

 

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