大魔王の姿は普通の人間には見えないらしい、しかし背後にいる霊の力が強い人間には気配を感じてしまう場合があるのだそうだ。
さっきの肉屋のおっちゃんがそういうタイプらしく、背後の霊が大魔王に怯えてしまい、さっきのような事になってしまったのだと大魔王は言っていた。
「じゃあ、僕にも背後に霊がついていたの?」
僕はイマイチそう言う話は信じていなかったのだが、悪魔の王様を目の前にしては考えを改めるほか無い。
「ご主人さまの背後霊は私と入れ替わりに先ほど離れていってしまいました。」
「今日からはこの私が背後霊となります」
大魔王は僕の目の前で腕を組み、直立不動で立ったまま話している。
「あ……あの大魔王さん……大魔王さんみたいな偉い人? 悪魔にご主人さまって呼ばれるのはちょっと……」
「あと、疲れるので座ってください」
僕は大魔王が立っているので自分だけ座る訳にはいかないと思い立っていた。
僕はベットに腰掛け、魔王には座布団を出して座ってもらった。
落ち着いたところで急に喉が渇いている事に気がついて、冷蔵庫にオレンジジュースを2つ取りに行った。
大魔王はオレンジジュースを知らなかったらしく、手を付けようとしなかった。
「おいしいですよ、人間には……」
僕はストローで飲んで見せた。
大魔王は僕の方をチラチラと見ながらジュースを手に持ちストローを口に当てて少しだけすすった。
ピクッと動いたのが見えた。口に合わなかったのかも知れない、悪魔と人間ではやはり味覚が違うのだろうか。
大魔王はストローを口に咥えたまま固まっていた。
「あ、不味かったら無理しなくて良いですよ……人間とは味覚が違うのかも知れませんね」
僕は気を使って不味いと言えないのかも知れないと思い、オレンジジュースを下げようとコップに手を伸ばした。
ズッズッ……、ツコーーーッ
僕が手を伸ばそうとした瞬間、大魔王はオレンジジュースを一気に飲み干した。
そして、飲み終わったコップを床に置き、まだオレンジジュースが入っている僕のコップを凝視している……。
き……気に入ったのかな?
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